新型コロナウイルスの感染拡大による全国一斉休校以降、ストレスから体調を崩したり、異常行動を起こしたりする子どもも少なくありません。
私たち大人はどのように向き合えばいいのでしょうか?
公衆衛生学の専門家であり、当財団の選考委員を務める山縣先生に伺いました。
山縣 然太朗先生
山梨大学大学院総合研究部医学域社会医学講座 教授
専門は公衆衛生学、人類遺伝学。社会医学系専門医・指導医。子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の甲信ユニットセンター長を務めるほか、「コロナ専門家有志の会」のSNSで情報発信を行っている。
新型コロナウイルスは子どもの心にどのような影響を与えましたか。
2020年3月の全国一斉休校以降、子どもたちの日常生活は大きく変わりました。突然「家にいなさい」と言われ、友達とも会えず、テレビからは恐ろしいニュースが流れ続けます。このような状況が続けば当然、さまざまな心の問題が出てきます。
山梨大学医学部医学科社会医学講座が4〜5月に3〜14歳の子どもを持つ保護者を対象に行った全国調査では、約7割の子どもに何らかの問題行動がありました。もっとも多かったのは「睡眠障害」で82.1%、次に多いのが「食欲変化」の40.7%です。このほか4人に1人が「(新型コロナウイルスが怖いので)外に出たくない」と感じていることも分かりました。また保護者も強いストレスを感じています。2016年の国民生活基礎調査では、受診が必要なほど強いストレスを感じている人の割合は約1割でした。しかし今回の調査では、その割合は約30%と3倍に増えていました。
さらに注目すべきだったのは、保護者がストレスを感じていればいるほど、それに比例して子どもの異常行動も増えていることです。ストレスを感じていない保護者の子どもは異常行動が59.4%だったのに対して、強いストレスを感じている保護者の子どもは異常行動が82.0%に上っていました。保護者が子どもの心を守るキーパーソンであることは明らかだと思います。
ストレスを抱えた子どもにどのように向き合えばよいでしょうか?
まずは保護者が自分自身、どれほどストレスを感じているのか客観的に知ることが大切です。方法としては、企業で行うストレスチェックや国民生活基礎調査で使われるK6というチェックなどがあります。自分のストレス度は意外と自分では分からないものですから、ツールを活用して自分の状態を把握してみてください。気になることがあれば、すぐに家族や専門家に相談しましょう。
次に大切なことは、子どもが問題行動をしたときに、子ども自身に原因があると決めつけないことです。子どもの行動が気になるのは、自分自身がストレスを抱えているせいかもしれません。また、コロナ禍で学校という場所自体が子どもにとって精神的に休まらない場所になってしまったからかもしれません。マスク警察のように友達同士で取り締まったり、本来、楽しみなはずの給食時間も友達とおしゃべりすることはできません。大人の態度や環境の変化が子どもの問題行動を引き起こしていることもあるのです。
最後に、子どものストレスが爆発したときにはそれを受け止めてあげてください。時間を作って話を聞き、良いところがあれば褒め悪いところは具体的に指摘してあげると、子どもは落ち着きます。怒りの感情はマイナスです。とはいえ、子どもを目の前にするとどうしても感情的になってしまうという方もいると思います。そんなときは、一旦その場を離れ時間をおくことも役立ちます。
ゼロリスクを求めず、正しい知識で、子どもが一人で悩まないように、寄り添ってあげてほしいと思います。
公衆衛生学って何?
病気にかかった個人を診察・治療する医学を「臨床医学」と呼ぶのに対して、「公衆衛生学」は社会全体の人々が病気にならず健康に過ごせるよう、環境やライフスタイルなどが人々の健康にどのような影響を与えるのかを研究する学問です。感染症対策も公衆衛生学の大切な研究のひとつです。
やってみたい! ストレスチェック「K6」
6つの質問でストレス度合いをチェックできる「K6」。受けてみたい方は公益財団法人明治安田厚生事業団のメンタルこころの健康ページにアクセスしてください。
インタビュー実施日|2020年9月29日
取材・執筆協力|横井かずえ
イラスト|上路ナオ子