長引くコロナ禍、子どもたちは自宅で過ごすことが多くなりました。そのような環境の中、子どものネット依存を心配する方が多くいらっしゃるようです。
そこで、メディアとどのように付き合うべきかを公衆衛生学の専門家であり、当財団の選考委員を務める山縣先生に伺いました。
山縣 然太朗先生
山梨大学大学院総合研究部 医学域社会医学講座 教授
専門は公衆衛生学、人類遺伝学。社会医学系専門医・指導医。子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の甲信ユニットセンター長、日本小児医療保健協議会「子どもとICT~子どもたちの健やかな成長を願って~」委員会委員長を務めるほか、「コロナ専門家有志の会」のSNSで情報発信を行っている。
最近よく耳にする「ネット依存」とは何でしょうか?
「ネット依存」とは、インターネットに過度に没入してしまうあまり、スマートフォンなどのメディアが近くにないと落ち着かなかったり、使用時間を自分ではコントロールできなくなることで、対人関係や日常生活に支障をきたす状態のことをいいます。
こうした「メディアと健康の問題」については、パソコンや携帯電話が普及し始めた1990年代からいわれ続けてきました。2000年代に入るとネットゲームが世界中で問題になり始め、韓国ではゲームのやりすぎで命を落とした人もいます。そうしたことから、世界中でさまざまなガイドラインの制定や規制の導入が進んでおり、日本においても日本小児医療保健協議会(四者協)が子どもとICTの問題について提言を発表し、注意喚起をしています。
実は「ネット依存」が疾患として認められたのはつい最近の話で、2019年にWHOにより「Gaming Disorder」(ゲーム症、ゲーム障害)として国際疾病分類の第11版に記載されることになりました。
私が行った実態調査でも、スマホなどのメディアを長い時間使う子どもほど睡眠時間が短くなっていたり、運動をする機会が減っていたり、勉強時間が少なくなっていることがわかっています。最近では、コロナ禍の一斉休校で子どもの「ネット依存」が心配されており、社会問題の1つとなっているのです。
子どもの健康や発達にどのような影響が考えられるのでしょうか?
依存状態というのは極端な状態ですが、その前段階として4つの影響が考えられます。
① 時間を奪われることによる影響
1日24時間しかない中、スマホやゲームに時間を費やしてしまうことで、生活の時間が奪われてしまいます。例えば、睡眠時間の不足で朝起きられず不登校になったり、運動する時間が減ることで肥満になりやすいなど。こうした生活時間の不足は、成長期の子どもには特に影響が大きいのです。
② 体や心への影響
スマホのディスプレイなど表示端末の長時間利用による健康障害が心配されます。これはVDT(Visual Display Terminal)症候群と呼ばれ、さまざまな影響を及ぼします。具体的には、眼精疲労や視力低下などの「眼の症状」、肩こりや頭痛、首すじの痛みなどの「体の症状」、さらには、イライラ感や抑うつ症状などの「心の症状」です。
③ コンテンツによる影響
コンテンツの内容や情報伝達手段による影響も考えられます。例えば、出会い系サイトのような場所で事件や事故に巻き込まれたり、裏サイトのようなところで誹謗中傷され心の問題が生じたりすることもあります。
④ 発達への影響
人と話す時間が減ることで、言語やコミュニケーション能力、社会性を育むことへの影響が心配されます。社会性が身につかなければ、集団の中で生活がしづらくなります。
なお、依存状態になってしまうと、大脳の前頭前野という理性や社会性を司る部分の活性が下がり、本能を司る大脳辺縁系の活性が上がってしまいます。つまり、本能に従った状態となり、「わかっちゃいるけど、やめられない」ということになってしまうわけです。これはアルコール依存症やギャンブル依存症と同様の脳の状態です。
親は子どものネット依存とどのように向き合えばよいでしょうか?
さまざまな影響が心配される一方で、スマホは今や我々の生活には欠かすことができない、非常に便利なものであるのも事実です。だからこそ、リテラシーが必要だということです。それは子どもに限らず、大人にも言えます。どのように付き合っていくのかをしっかり学び、考え、それを子どもと一緒に実践していくことが大事でしょう。
その時に忘れてはいけないのは、子どもたちはデジタルネイティブ(生まれた時からの付き合い)であるという事実です。特に今の中高生はSNSネイティブであり、大人が心配する以上に、彼らの自己表現の1つとして上手に使っているのです。彼らがそれを使うのは「当たり前」であることを理解するとともに、頭ごなしに禁止したり、取り上げたりするのではなく、きちんと話し合ってルールを決めて使用していくことが大事です。
まとめ
<ミニコラム> 「アウトメディア活動」って何?
テレビやパソコン、スマホ、ゲームなどのメディア機器から離れ、あえて使用しない時間を持つ取り組みのこと。生活からメディアを完全に排除しようとするのではなく、過度な接触時間を減らすことで、外遊びや読書、家族での団らんや人との繋がりの時間を大切にする活動です。
インタビュー実施日|2021年9月28日
取材・執筆協力|志村江(glassy&Co.)
イラスト|木村友美