
痛みなどの症状を抑え回復に向かわせてくれる「薬」。
けれど、その使いかたを間違ってしまうと、期待する効果が得られなかったり、
知らないうちに深刻な副作用が起こることも。
専門家に、正しい薬との付き合いかたについて伺いました。
喜屋武 玲子先生
埼玉医科大学病院 臨床中毒センター・臨床中毒科 講師
2003 年札幌医科大学卒業後、同大学救急・集中治療部に入局。
道内の救命センター勤務などを経て、2020 年中毒を専門とするために埼玉医科大学救急科に入職し、
2021 年より現職。
臨床中毒センターで急性中毒の診療にあたる。
処方薬は市販薬よりも効き目が大きい?
医師の処方箋が必要な「処方薬」は医療用医薬品とも呼ばれ、薬局やドラッグストアで買える「市販薬」と
比べて効果が大きいぶん、副作用も大きく、使用法にも注意が必要です。
では、市販薬は処方薬と比べて効き目が弱いから、「用法用量」を守らなくてもいいのかといえば、
それは間違い。
副作用や健康への悪影響を及ぼすこともあるので、必ず薬に添付された説明書をよく読んで使いましょう。
薬を飲み忘れたらすぐ飲むべき?
定期的に飲むべき薬の飲み忘れに気づいたら、すぐ飲むのが基本。
ただし次の服薬時間が近い時は、忘れた分を飛ばして、次から普段どおり1 回分を飲みましょう。
とはいえ、薬の種類によって飲み忘れの対応は違うので、あらかじめ医師に聞いておくことが大切です。


子どもが薬を飲んでくれません。ジュースで飲んでも大丈夫?
特に医師や薬剤師の注意がなければ、ジュースやアイスなどと混ぜて飲んでも大丈夫です。
けれど酸性度の強いオレンジジュースやスポーツドリンクなど、組み合わせによっては薬のコーティングが
はがれたり、逆に苦味が出たり、効果が弱くなる薬もあります。
まずは薬剤師に飲みかたを相談してください。


処方薬と、薬局で買った薬やサプリを一緒に飲んでもいい?
市販の薬やサプリメント、漢方薬にも、体にしっかり作用する成分が入っています。
特に処方薬を飲んでいる人は、病気ごとに使ってはいけない成分があったり、飲み合わせが悪いと効きすぎたり、効果が弱まることも。
必ず医師や薬剤師に、一緒に飲んで良いかどうか確認しましょう。


薬に使用期限はある?
市販薬の場合、使用期限はパッケージに表記されています。
期限を過ぎると、薬の劣化や変性が起きて体の適切な場所に届かないこともあるので、飲まずに処分を。
処方薬には使用期限の表記はありませんが、医師がその時のその人の症状に合わせて処方していますから、
医師の指示どおりに飲むことが大事。
勝手にやめたり減らしたりすることで薬の効果が薄れたり、体に残っていた菌が増えるなどして、症状が再び悪化することもあります。
処方薬を家族にあげてもいい?
薬を他人にあげるのはNG。
その人やその時々によって病気の原因や体調は異なりますし、特定の薬を代謝する力が弱い人、アレルギーを持つ人にはリスクになります。
お薬手帳って必要?
必要です。
なぜならば、複数の病院で処方されたすべての薬を1 冊で把握できるから。
医師や薬剤師は、薬の飲み合わせや重複をチェックできます。
提示すると医療費の負担が軽くなったり、大規模災害時には処方箋なしでも薬局で薬が受け取れる特例が
得られることも。
コラム:若者の間で広がる“市販薬のらん用”とは?喜屋武玲子先生に聞きました。
「市販薬も飲みすぎると中毒症状が起こります」
ドラッグストアで買える市販薬は、私たちの生活に欠かせない存在です。
けれどその手軽さの反面、若者たちの間で「らん用」が問題になっているのをご存知ですか?
「らん用」とは、用法容量を守らず、本来の目的とは異なる目的で使うこと。
たとえ1 回でも、下剤をダイエット目的で使ったり、効果が出ないからと大量に飲んだりするのも
らん用にあたります。
市販薬のらん用が目立つのは10 ~ 20 代の若者で、なかでも薬を飲みすぎてしまう「オーバードーズ」は深刻です。
最近では、小学生が原因不明の発熱や頭痛が続いて病院を受診したら、薬の過量服用だったケースも
あります。
●らん用が問題になっている市販薬
・鎮咳・去痰薬(せきどめ)
・総合感冒薬(かぜ薬)
・解熱鎮痛薬(痛み止め)
・鎮静・睡眠改善薬
・抗アレルギー薬、酔い止め
・眠気防止薬(カフェイン製剤)
らん用が問題になっている市販薬は、かぜ薬をはじめ身近なものばかり。
なぜ問題かというと、らん用を続けることで依存症につながる可能性のある成分が入っているからです。
「市販薬は効き目が弱いから、たくさん飲んでも大丈夫」は間違いで、市販薬は覚醒剤よりもより依存性が高いという報告*1 も。
また日本の市販薬の多くは、複数の効果を期待していろいろな成分が入っているのが特徴です。
たとえば頭痛が治らないからと鎮痛剤を飲みすぎて、ほかの成分で急性中毒を起こしたり、
薬の服用による新たな頭痛が起きたりする可能性もあります。
市販薬は誤った使い方をすると、副作用や体の機能障害、薬物依存(慢性中毒)をもたらす“毒” にも
なりえます。
そのため特定の薬については、販売の場所・数などに制限が設けられているのです。
*1 PMDA 医薬品・医療機器等安全性情報 No.365,2019 より。
覚せい剤、睡眠薬・抗不安薬、揮発性溶剤との比較で、市販薬が最も依存性が高かった。
「オーバードーズは子どものSOSサイン。みんなでともに解決を。」
なぜ若者は薬に頼るのでしょう?
私たちは、日常の悩みやストレスを自分で手当てするための手段のひとつだと考えています。
子どもの居場所は家と学校、塾などに限られ、大人と違ってなかなか逃げ場所がありません。
勉強や人間関係の辛さ、不登校といった日常的な悩みは相談先がわからず、病院にも行きにくい。
こうした“生きづらさ”から脱するために、インターネットやSNS、友だちなどから気持ちが楽になれる情報を集め、オーバードーズに行き着くことがあるのです。
また、オーバードーズと聞くと、違法な薬物を摂取したりするというイメージを持つ人も多いかもしれませんが、多くは普通に学校に通う、ごく普通の子たち。
言い換えれば、彼らのSOSサインであり、誰にでも起こりうる問題なのです。
問題解決のために大切なのは、まず周りの大人がこうした背景に目を向け、理解を深めることです。
らん用をするのは“困った子”ではなくて“困っている子”。
困りごとに対して「そんなことくらい」と軽く扱うのではなく、まずS O S サインを受け止め、
解決策を一緒に考えてほしいのです。
またあなたが子どもなら、親や学校の先生、医者でもいいから、信頼できる大人を見つけて相談してほしい。
そのためにも家庭や学校、医療機関、行政など、周りの大人と社会が協力し合い、サポートしていくことが
大切だと思います。
●薬で深刻な症状が現れた時は、こちらに電話相談を
発熱が続く、過呼吸、脈が速い、言動が普段と違うなどの症状があてはまったらまずは相談を。
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インタビュー実施日|2024年8月26日
取材・執筆協力|渡辺満樹子
イラスト|中山信一