みなさんは「朝ごはん」をちゃんと食べていますか?実は、大人だけでなく子どもの朝食欠食率も問題になっており、食べないことによるさまざまな影響も懸念されています。あらためて「朝ごはんの大切さ」について考えてみたいと思います。
加藤 則子先生
十文字学園女子大学 教育人文学部 幼児教育学科 教授
専門は社会医学、母子保健。東京大学医学部卒業後、都立築地産院新生児科に勤務。国立保健医療科学院で母子健康手帳にある発育グラフの作成などに携わった後、2015年より十文字学園女子大学幼児教育学科にて幼稚園教諭の養成に従事。主に子どもの健康・安全等についての科目を担当。2022年より当財団の選考委員も務める。
朝ごはんを食べない子どもが増えているそうですが、本当でしょうか?
朝ごはんを食べる習慣のない人の割合を「朝食欠食率」といい、厚生労働省や文部科学省、その他の団体や企業などが定期的に全国調査を行っています。その結果を見ると、子どもの朝食欠食率は2013年くらいから上がり始めていて、特に2017年以降は大きく増加しています。
増加に至ったはっきりとした原因はわかっていませんが、スマートフォンやゲームの普及による夜更かしの増加や睡眠時間の減少が影響しているのではないかといわれています。特にここ数年は、コロナ禍で生活のリズムが狂っていることも大きな要因だと考えられます。
なお、大人の朝食欠食率も年々増え続けています。その“犯人”として挙げられているのが、20代から40代の「働き盛りの男性」です。
子どもの場合は、親の努力で改善できる余地がありますが、大人の場合は仕事の多忙感などから「食べたいが食べられない」場合もあり、改善は簡単なことではないといえるかもしれません。
朝ごはんを食べないと、体にはどんな影響がありますか?
血糖は食事を摂ることで上がるため、朝ごはんを食べないと血糖が下がったままで過ごすことになり、日中の活動のクオリティが落ちてしまうと考えられます。
また、文部科学省が小学生を対象に行っている「全国学力・学習状況調査」によると、朝ごはんを食べる子どもの方が、食べない子どもに比べて国語や算数の成績が高いことがわかっています。体力においても明確な差が出ており、毎日食べる子どもの方が体力や運動能力が高かったり、身体のだるさや疲れを感じにくいという調査もあります。
特に成長期にある子どもの場合は、毎日朝ごはんを食べることが心身の発育にも大きな影響を与えるといってもよさそうです。
一方、大人の場合の影響も深刻です。朝食欠食は運動不足や喫煙、間食、肥満などと相関が出やすいといわれています。また、鬱などの精神ストレスとの関係も心配されています。
体にとってのエネルギーとなるものを朝からきちんと摂取するためにも、朝ごはんはとても大事です。一日の活動を充実させるためには、しっかり食べた方がいいに決まっています。ただ、「食べない」というのは、生活リズムが乱れてしまった結果「食べられていない」という場合が多いのも現実です。つまり、朝ごはんを頑張って食べれば解決するというよりは、生活習慣が変われば朝ごはんも食べられるようになる、ということでもあるのかなと思っています。
朝ごはんを習慣化するためにできることは?
朝ごはんは、生活習慣の中でも「睡眠習慣」との関係が特に高いです。例えば、夜寝る時間が遅いと朝起きられず、朝食を食べる時間がなくなってしまいます。これは大人にも多いですが、夜遅い時間帯にたくさん食べてしまえば、朝起きた時にお腹が空いておらず、朝ごはんを食べたいとは思えないでしょう。
ですから、子どもが朝、お腹が空いた状態で目が覚めて、朝食をしっかり食べられるような生活リズムを作ることが大切です。そのためには、寝る時間や起きる時間を決めて親子で守ったり、夜は疲れて自然と眠たくなるような日中の過ごし方を一緒に考えていく必要もあるでしょう。
生活リズムというのは「順番にやることを決めておく」と身につきやすいといわれています。例えば、朝起きたらまず着替えて、次に朝ごはんを食べ、その次に歯を磨く…というふうにやるべきことの順番を決めて、毎日その通りにやるようにします。そのルーティーンの中に朝ごはんも組み込んで、「毎日あるもの」と位置づけることができれば定着しやすくなります。このように生活リズムを作っていければ、多くの家庭で悩みがちな「朝のお支度」の問題も解決しやすくなります。お支度がスムーズにできると、朝ごはんを食べる余裕もでき、好循環です。
もう1つ、習慣化に有効なのが「共食」です。一緒に食べる人がいる方が、朝ごはんを食べやすいというデータもあります。家族がいれば「毎朝何時」と時間を決めてしまい、必ずそれに合わせて全員が起きて食べるようにするのもいいでしょう。
朝ごはんの摂り方で気をつけた方がいいことは?
何を食べるかについては、正直それほど気にしなくていいと思いますが、ポイントを挙げるとすれば、食後血糖値がゆっくり上昇するGI値が低い食品がいいでしょう。いわゆる「腹持ちが良い」もので、肉や魚などのタンパク質、果物やきのこ、乳製品などが該当します。
子どもの場合でよくあるのが、成長の過程で好みが急に変わって「食べたくない」と突然いい出すケースです。そういう時のために、温めたり混ぜたりすればすぐに食べられるような簡単なものを常備しておくとよいでしょう。
なお、甘い飲料を朝ごはんがわりに飲む人がいますが、すぐに血糖値が上がる分、実は下がるのも早いため、すぐにお腹が空いてしまいます。急な上げ下げは精神的にも安定しにくく、かえって朝が辛くなることもあるので要注意です。
他に、「朝ごはん」について意識しておくといいことは?
よく「朝ごはんはバランスよく食べよう」などといいますが、朝からいろいろなものを準備するのは大変です。あくまで理想はそうだと踏まえながら、無理なくできる方法を自分なりに考えていけばいいでしょう。
「何が何でも朝ごはんを食べるようにする」ことが目的ではなく、朝ごはんをしっかり食べられるような生活のリズムを作ることが第一です。そのために子どもと一緒にルールを決めて守ったり、朝しっかり起きられるような生活を大人も心がける必要があります。
家族がいない単身者であっても、夜は自然と眠たくなるような日中の過ごし方を意識してみると、朝の時間の使い方も変わっていくはずです。少し運動の時間を増やすだけでも、いつもよりお腹が減ったり睡眠の質が変わったりしますので、意識してみてください。
まとめ
<ミニコラム> 「GI値」って何?
GIとは「Glycemic Index」の略で、食後血糖値の上昇度を示す指数のこと。GI値が高い食材を食べると血糖値は急上昇し、反対にGI値が低いと血糖値は緩やかに上昇します。一日の活動を支えるという点では、朝食にはGI値が低い食品がいいといわれています。糖質の吸収がおだやかなことから太りにくく、糖尿病やメタボの予防にも効果的です。
インタビュー実施日|2022年8月29日
取材・執筆協力|志村江(glassy&Co.)